現金勘定の残高がマイナスの場合は、税務調査でトラブルになる

概要

 起業したばかりの人に多いのですが、試算表や決算書を作成してみると、現金勘定の残高がマイナスのことがあります。

 実際の現金の残高がマイナスになることはないので、その状態で申告書を税務署に提出し、その後、税務調査が入った場合、調査官ともめることになります。

 なお、現金勘定の残高がマイナスになるのは、期末(個人事業主の場合は年末)時点だけではなく、期中(年中)においてもアウトです。

 ですから、税務調査が入り、総勘定元帳の現金勘定の残高がマイナスの日がある場合は調査官に指摘されます。

 ただし、仕訳登録の前後で同日において一時的にマイナスになるのは問題ありません。例えば、9/1の現金残高が1万円であったが、9/2、普通預金口座から2万円を引き出し、2万円の消耗品を購入したとします。

 仕訳登録を、預金引出、消耗品購入の順にすればいいのですが、消耗品購入、預金引出の順にすると、一時的に、帳簿上の現金残高がマイナスとなります。

 ただし、その日の終わりの現金勘定の残高がプラスであれば、問題ありません。単に、仕訳登録の順番で一時的にマイナスになったにすぎないからです。

 調査官も、同日の取引きについて、時間軸順に仕訳登録をしろとまでは言ってはきません。ただし、その日の最終残高は、必ず、プラスである必要があります。

日付入金出金現金残高
9/11万円
9/22万円△1万円消耗品購入
9/22万円1万円普通預金引出

現金勘定残高がマイナスになる理由

(1)私的費用や架空経費を計上

 現金勘定残高がマイナスになる理由の1つ目は、私的費用や架空経費を計上している場合です。これが原因であるとして、調査官は否認をしてきます。

 私的費用や架空経費を計上しないようにしてください。

(2)現金売上抜きや売上漏れ

 現金勘定残高がマイナスになる理由の1つ目は、現金売上抜きや売上漏れがある場合です。

 現金商売限定ですが、売上を現金で入金している場合ですと、売上が正しく計上されていない場合があります。意図的に売上を抜くことは論外ですが、うっかりミスである売上漏れもしないように、必ず、仕訳登録してください。

 意図的に売上を抜くことが発覚した場合、当然に、重加算税の対象となります。また、うっかりミスである売上漏れであっても、調査官は重加算税の対象であると言うことが多いです。

 ですから、現金商売をされている方は、売上を正しく仕訳登録をする必要があります。

(3)代表者からの借入金計上漏れ

 私的費用や架空経費を計上していない、あるいは、現金売上抜きや売上漏れがないのに、現金勘定の残高がマイナスになるならば、代表者からの借入金計上漏れが原因と考えられます。

 忘れずに、ちゃんと、代表者からの借入金計上を仕訳登録しましょう。例えば、会社が代表者から借入100万円をして現金で保有した場合は以下のような仕訳登録します。

現金 100万円  役員借入金 100万円

 なお、代表者からの借入金額が高額な場合は、借入金の裏付けとなる消費貸借契約書等の作成や、借入金の原資についての明確さがないと、税務調査でトラブルになります。

令和4年3月4日裁決(名裁(法・諸)令3第31号)の現金勘定残高マイナスに関する判断要旨

① 請求人は、役員借入金の計上漏れがあったなどとして、本件事業年度の総勘定元帳を再度作成し直し、本件調査の担当職員に対し、現金残高がマイナスとなっている期間のない総勘定元帳を令和元年11月27日に提出したが、役員借入金の裏付けとなる消費貸借契約書等の資料は提出されておらず、役員借入金の原資についての説明もされていない。

② 請求人は本件事業年度の総勘定元帳の現金勘定を、本件調査の開始後において2度にわたり作り直しているが、法人税の申告が確定した決算に基づき行われることからすれば、決算の基礎となる総勘定元帳の一部である現金勘定を2度にわたり作り直すなど、そもそも請求人の現金勘定の正確性には疑念を覚えざるを得ない。これに加えて、本件各仕入れを計上している期間につき現金残高がマイナスとなっている期間があったことについて、請求人は、役員借入金の計上漏れが原因であると主張するが、現金残高がマイナスとなっている状態での高額な借入金であれば、計上漏れという事態が生ずること自体考えにくい。また、役員借入金の裏付けとなる資料の提示もなく、本件代表取締役がそのような高額な貸付金原資を有していたことにつき何らの説明も行われていないことなどからすれば、本件調査において現金残高がマイナスであるとの指摘を受けて、辻褄を合わせるために役員借入金を計上したにすぎないものと認めるのが相当であり、本件各仕入れの当時、請求人が本件各仕入れの決済を行うに足る現金を保有していたとは認められない。

③ 以上のことからすれば、本件各仕入れは実在しない架空の取引であると認められる。