概要
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35①)」と「住宅ローン控除(措法41)」はどちらか一方の選択適用となります(措法41㉒㉓)。
それまで住んでいた住宅を譲渡するとともに、ローンを組んで新たに住宅を購入・居住するケースは多く、どちらの特例を利用したほうが税軽減になるかを慎重に検討したうえで申告する必要があります。
具体的には、新たな住宅を居住の用に供した日の属する年分で、措法35条1項(3項の規定を適用する場合を除く)の適用を受ける場合、又はその前年、前々年で適用を受けている場合は、住宅ローン控除の適用を受けることはできません(措法41㉒)。
また、居住の用に供した日の属する年の翌年以後3年以内(旧住宅を令和2年3月31日以前に譲渡した場合は、居住年の翌年以後2年以内)に、その新たな住宅以外の居住用財産を譲渡し、措法35条1項の適用を受ける場合も同様となります(措法41㉓)。
令和2年度税制改正において、居住の用に供した日の属する年の翌年以後「2年以内」から「3年以内」とされましたが、その理由について、令和2年度税制改正の解説(260頁)では以下のように解説しています。
「新規住宅の居住年の前後2年間を含む 5 年間に、旧住宅等について居住用財産の譲渡特例の適用を受けている場合には、新規住宅について住宅ローン税額控除等の適用を受けることはできないこととされています。一方、居住用財産の譲渡特例は、その者の居住の用に供されなくなった日から同日以後 3 年を経過する日の属する年の12月31日までの旧住宅等の譲渡について適用が可能であることから、旧住宅等を居住の用に供しなくなった年と同じ年に新規住宅をその者の居住の用に供し、その3 年後に旧住宅等を譲渡した場合には、新規住宅と旧住宅等について、それぞれ住宅ローン税額控除等と居住用財産の譲渡特例を適用することが可能となっていました。」 「特例の重畳的な適用をできなくするために、所要の改正を行うこととされました。」 |
〇現時点での重複適用の可否
年分 | その前 | 前々年 | 前年 | 居住年 | 翌年 | 翌々年 | 3年目 | その後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
可否 | 〇 | × | × | × | × | × | × | 〇 |
また、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35①)」との重複適用ができないだけでなく、「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3)」や「特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の2、36の5)」を適用した場合も、新規住宅については住宅ローン控除の適用を受けることはできません。
なお、先行して新規住宅に係る住宅ローン控除を適用している場合は、当該控除を否認する義務的修正申告をすれば従前住宅の譲渡に係る特例を適用することができます(措法41の3①、国税庁HP質疑応答事例「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例等の適用を受ける場合の修正申告」)が、先行して従前住宅の譲渡に係る特例を適用している場合には、新規住宅に係る住宅ローン控除を適用することはできません。
前年に居住用財産の特別控除の適用を受ける旨の確定申告書を提出した場合は、本年分について住宅借入金等特別控除の規定を適用することはできないとされた事例-令和3年6月18日裁決(東裁(所)令2第94号)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、平成24年12月24日、Aの土地に係る敷地権及び同土地上に所在する鉄筋コンクリート造陸屋根13階建ての建物の1202号室(以下「本件譲渡家屋等」という。)を目的物とする売買契約を締結し、その後、本件譲渡家屋等を平成25年3月1日から居住の用に供していた。
Xは、平成29年5月2日、本件譲渡家屋等を譲渡した。
② Xは、平成30年2月16日、e-Taxを利用して、本件譲渡家屋等の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、居住用財産控除規定(措法35①)を適用するとして、確定申告をした(以下、この申告を「平成29年分確定申告」といい、平成29年分確定申告に係る確定申告書のデータを「平成29年分確定申告書」という。)。
③ Xは、平成30年4月2日、Bの土地に係る敷地権及び同土地上に所在する鉄筋コンクリート造陸屋根6階建ての建物の505号室(以下「本件購入家屋等」という。)を取得し、同月20日、住所を肩書地に異動して、以後、本件購入家屋等を居住の用に供している。
④ Xは、平成31年3月7日、e-Taxを利用して、本件購入家屋等に係る住宅借入金等控除規定(措法41)を適用して確定申告した(以下、この申告を「平成30年分確定申告」といい、平成30年分確定申告に係る申告書のデータを「平成30年分確定申告書」という。)。
⑤ 原処分庁は、令和2年6月30日付で、Xは、平成29年分の確定申告において居住用財産の譲渡所得の特別控除の規定の適用を受けているから、平成30年分の所得税等について住宅借入金等控除規定を適用することはできないとして、更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)をした。
⑥ Xは、原処分の全部の取消しを求めた。なお、Xは、平成29年分確定申告について、国税通則法(以下「通則法」という。)19条に規定する修正申告を行っていない。
(2)本件の主な争点
Xは、平成30年分の所得税等について、住宅借入金等控除規定の適用を受けることができるか否かである。具体的には、平成29年分確定申告において居住用財産控除規定の適用を受けた場合であっても、同年分について当該規定の適用を受けないこととする修正申告をすれば、平成30年分の所得税等について住宅借入金等控除規定を適用できるといえるか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
① Xは、Xが平成29年分の所得税等について居住用財産控除規定の適用を受けない旨の変更をする修正申告をした場合には、平成30年分の所得税等について住宅借入金等控除規定の適用を認めるべきであると主張するが、Xは平成29年分確定申告に係る修正申告をしていないのであるから、Xの主張はその前提を欠き、本件更正処分が違法であることの理由になり得ないといわざるを得ない。
もっとも、Xは、Xが平成29年分確定申告書において居住用財産控除規定の適用を受ける旨の選択をしたのは、本件各控除規定が重複して適用できると誤解したためであり、平成29年分確定申告に係る修正申告を行ってその選択を変更すれば、平成30年分の所得税等について住宅借入金等控除規定の適用を受けることができるようになるのであるから、こうした点を踏まえることなく、住宅借入金等控除規定を適用できないとして行った本件更正処分は違法である旨の主張をしていると解することもできる。
Xの上記主張に関しては、まず、平成29年分確定申告に関して修正申告を行い、居住用財産控除規定の適用を受ける旨の選択を変更することが、そもそも可能であるか否かが問題となるため、以下、この点について検討する。
② 租税特別措置法(以下「措置法」という。)35条11項は、居住用財産控除規定の適用を受けようとする者の同条1項に規定する資産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に、居住用財産控除規定の適用を受けようとする旨その他の一定事項の記載があり、かつ、当該譲渡による譲渡所得の金額の計算に関する明細書その他の一定の書類の添付がある場合に限り適用する旨規定しているところ、これは、個人が居住用財産を譲渡した場合に、居住用財産控除規定の適用を受けるか否かを納税者の選択に委ねる趣旨と解するのが相当である。
一定の税務処理に当たって、その計算方法が二つ以上あり、そのいずれを採用するかについて、法令が納税者の選択に委ねていると解される場合には、税務計算はその選択した方法に従って行うべきこととなるから、納税者が申告において選択した方法による税額の計算に誤りがないのであれば、仮に、当該方法と異なる方法を選択すれば税額が増加する場合であったとしても、そのことは通則法19条1項1号に定める「税額に不足額があるとき」に該当する理由にはならない。よって、納税者が先の申告において選択した計算方法を変更することを目的に修正申告を行うことはできないと解するのが相当である。
③ Xは、居住用財産控除規定を適用するとして、所定の事項を記載した平成29年分確定申告書を送信しており、同年分の所得税等について居住用財産控除規定を適用して税額の計算をする方法を選択したものと認められる。そして、居住用財産控除規定の適用を受けるか否かは納税者の選択に委ねるのが措置法の趣旨と解されるから、一旦Xが当該規定の適用を受ける旨の選択をして確定申告を行った以上、その選択を変更することを目的に修正申告を行うことはできない。よって、Xは、本件譲渡家屋等の譲渡について居住用財産控除規定の適用を受ける旨の平成29年分確定申告における選択を変更することはできないから、措置法41条15項(編注:当時)により、平成30年分の所得税等について住宅借入金等控除規定の適用を受けることはできない。