概要
福利厚生の一環として、次のような要件で実施している場合には、人間ドックの検診料を福利厚生費として会社の損金の額に算入することができます(所基通36-29、国税庁HP質疑応答事例「人間ドックの費用負担」)。
(1)役員や特定の地位にある人だけを検診の対象とするものではないこと。なお、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができるような場合は問題ありません。
(2)その人間ドックによる検診の内容が健康管理の必要から一般的に実施されている程度であり、費用として通常必要であると認められる範囲内のものであること。
上記の要件を満たしていない場合は、給与となり源泉所得税等の問題が生じます。なお、人間ドックでの検診は、会社が指定(契約)した検査機関であることが望ましいとされています。
役員のみが受診した人間ドック費用を福利厚生費とすることはできないとされた事例-平成28年9月20日裁決(名裁(法・諸)平28第8号)(棄却)
(1)事案の概要
本件は、審査請求人Xが、役員2名(代表取締役と専務取締役)が受診した人間ドックに係る費用を損金の額に算入し、法人税及び復興特別法人税の申告を行ったところ、原処分庁が、当該費用はいずれも損金の額に算入することができない役員給与に該当するとして、法人税等の各更正処分等を行うとともに、当該費用の額は役員の給与所得の収入金額に算入すべき金額であるとして、源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分等を行ったのに対し、Xが、当該費用のうち成人病総合健診に係る費用については役員に経済的利益をもたらすものではなく給与には該当しないなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。
なお、本件各役員以外のXの従業員は、本件各事業年度において、人間ドックを受診する機会は与えられなかったが、健康診断(以下「本件健康診断」という。)を受診した。本件健康診断の受診に係る費用は一人当たり最大で18,522円(消費税等を含む。)であり、Xが当該費用を支払った。
(2)本件の主な争点
Xの本件成人病健診に係る費用(以下「本件費用」という。)は本件各役員に対する給与等に該当するか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
① 所得税法28条1項及び36条1項は、使用者が役員又は使用人の人間ドックの費用を負担することは、役員又は使用人がその費用相当分の経済的利益を受けたことになるから、その役員又は使用人に対する給与等に該当し、その利益相当分は給与所得の収入金額とされるのが原則である。もっとも、役員又は使用人の健康管理の必要から、使用者に対し、労働安全衛生法66条及び労働安全衛生規則44条に基づき、健康診断の実施が義務付けられていることに鑑みて、一定年齢以上の希望者は全て人間ドックを受けることができ、かつ、健診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担するような場合で著しく多額でないものについては、給与所得として課税する必要まではないと解される。
② 本件人間ドック費用は、Xが負担しているから、各役員に対する給与等に該当し、給与所得の収入金額とされるのが原則である。そして、役員以外のXの従業員は、各事業年度において人間ドックの費用をXが負担して受診する機会を与えられず、また、健康診断を受診したものの、その一人当たりの費用の最大額は18,522円(税込)であり、役員にかかった成人病健診の一人当たりの費用346,500円(33万円+消費税5%)又は356,400円(33万円+消費税8%)とは大きな差があることを考慮すると、本件費用に相当する経済的利益は役員だけを対象として供与された場合に該当するといえるから、課税する必要がない給与所得には当たらず、また、所得税基本通達36-29に定める要件も満たさない。したがって、本件費用は各役員に対する給与等に該当する。
③ 平成元年1月30日付直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」(国税庁長官通達)は、所得税法183条の規定が適用される給与等が物品又は用役などにより支払われる場合において、当該物品又は用役などの価額に消費税等の額が含まれているときは、当該消費税等の額を含めた金額が給与等の金額となる旨定めていることから、Xの源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額は、消費税等を含めた人間ドックに係る費用の金額を基に算出するのが相当である。当審判所において、Xの源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額を算出すると、いずれも審判所認定額が各告知処分の額を上回るから、本件各告知処分はいずれも適法である。