概要

 代償分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいいます(相基通11の2-9(注)、19の2-8(注))。

 事業や居住用財産を継ぐなど、財産を細分化されると困る場合、利用される方法です。また、相続人間で遺産分割でもめた際にもよく利用される方法です。

 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務(代償債務)を負担させて、現物分割に代えることができます(家事事件手続法195)。

 条文上は、上記のように「特別の事情があると認めるとき」とされていますが、実務では現物分割のみでは調整困難な事例が多いため、家庭裁判所においても代償分割は広く用いられています。

 代償分割に係る代償債務の種類や、代償債務の履行期限について法令等で限定されてはいません。

代償分割が行われた場合の課税価格の計算

一般的な考え方

 代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとなります(相基通11の2-9)。

(1) 代償財産の交付を受けた者
 (相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額)+(代償財産の価額)

(2) 代償財産の交付をした者
 (相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額)-(代償財産の価額)

 例えば、相続人が長男Aと次男Bの2人がいるが、相続財産としては代償分割時の時価2億円の土地1つしかないとします。この場合、その土地を長男Aが相続により取得するかわりに、長男Aが次男Bに1億円を払った(交付をした)とします。

 この場合、次男Bが相続財産に代えて交付を受ける1億円の金銭の額は、次男Bの相続税の課税価格に算入されることになり、長男Aが次男Bに交付する1億円の金銭の額は、長男Aの相続税の課税価格から1億円控除されることになります。

代償財産の価額

 上記の考え方で相続税の課税価格が決まるのが一般的ですが、相続人間でもめていると「代償財産の価額」が問題となります。

 例えば、相続人が長男Aと次男Bの2人がいるが、相続財産としては相続開始時の相続税評価額1億2,000万円、代償分割時の時価2億円の土地1つしかないとします。この場合、その土地を長男Aが相続により取得するかわりに、長男Aが次男Bに代償分割時の時価の半分の価値である1億円を現金で払った(交付をした)とします。

 時価2億円の遺産を半分づつ分けたはずなのに、次男については代償金の額1億円、長男Aについては2,000万円(1億2,000万円-1億円)が課税価格となると、次男Bからすると納得がいかないでしょう。

 かっての実務ではそうでしたが、前橋地裁平成4年4月28日判決(税資189号367頁)において租税の公平負担の原則に反していると判示され、通達が改正されることになり、代償財産の価額については以下のようにすることもできます(相基通11の2-10)。

(1) 代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、代償債務の額がその財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されている場合には、その代償債務の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた価額となります。

(2) 共同相続人および包括受遺者の全員の協議に基づいて、(1)で説明した方法に準じた方法または他の合理的と認められる方法により代償財産の額を計算して申告する場合には、その申告した額によることが認められます。

計算例

 相続人が長男Aと次男Bの2人がいるが、相続財産としては相続開始時の相続税評価額1億2,000万円、代償分割時の時価2億円の土地1つしかないとします。この場合、その土地を長男Aが相続により取得するかわりに、長男Aが次男Bに代償分割時の時価の半分の価値である1億円を現金で払った(交付をした)とします。

長男Aの課税価格
 1億2,000万円 - 1億円 = 2,000万円

次男Bの課税価格
 1億円

 ただし、代償財産(現金1億円)の額が、相続財産である土地の代償分割時の時価2億円を基に決定された場合には、長男A及び次男Bの課税価格はそれぞれ以下のように計算します。

長男Aの課税価格
 1億2,000万円 - {1億円 × (1億2,000万円 ÷  2億円 )} = 6,000万円

次男Bの課税価格
 1億円 × (1億2,000万円 ÷  2億円 ) = 6,000万円

否認されるケース

 上記の計算例でいえば、どちらの方法をとっても、長男Aと次男Bの2人の合計の課税価格は1億2,000万円であり、税務署が否認してくることはありません(もっとも、土地の評価額が1億2,000万円が適正の場合ですが)。

 税務署が否認してくるケースとは、長男Aと次男Bがそれぞれ有利な方法で申告をした場合です。上記の例でいえば、長男Aが課税価格2,000万円、次男Bが課税価格6,000万円で申告すると、2人の合計の課税価格は8,000万円となってしまいます。

 このような場合に税務署が否認してくることになり、過去の税務裁判例・裁決例もそのような実情となっています。

 相続人間で遺産分割でもめて、家庭裁判所による遺産の分割の審判により代償分割となったような場合はありがちです。相続人間で情報共有をせずに、それぞれで相続税申告をすることが多いからです。

前橋地裁平成4年4月28日判決(税資189号367頁)判示要旨

 原告及びその他の共同相続人は、代償分割対象財産と調整金とは価値においてほぼ等しいとの認識を有していたと認められる以上、原告としては、仮に代償分割対象財産を取得した場合あるいは調整金を取得した場合とのいずれにおいても同額の相続税を負担すべきところ、原告は、相続財産の時価計算による総額のうち約27分の2に相当する財産を取得したと認められるのに、本件処分により、相続税総額の1億4135万8300円の約83パーセントに該当する1億1775万9800円(ただし、国税不服審判所長のした同63年6月8日付け裁決により、本件処分の7542万0900円を超える部分については取り消されたが、それでもなお総額の約53パーセントに該当する金額である。)に及ぶ相続税を負担する結果となつており、それは、主として、原告が調整金の交付を受けたことによるものであつて、他の共同相続人の財産取得額及び負担相続税の割合に照らせば、甚だしく均衡を欠いていると言わざるを得ず、前記、租税の公平負担の原則に反しているというべきである。したがつて、本件処分は違法であると解するのが相当である。そこで、調整金の価額の評価について検討する。
 前述したように、原告及びその他の共同相続人らは、原告が本来ならば取得できるにもかかわらず手放した財産、すなわち代償分割対象財産と、それに代わるものとして原告が取得した調整金とは、その価値をほぼ同じくするとの認識を有していたと認められるから、本件遺産分割当時、原告及びその他の共同相続人らが評価していた代償分割対象財産の時価をもつて調整金の評価額になると解するのが相当である。

代償債務を支払って相続により取得した遺産(土地、建物)の取得費

 例えば、相続人が長男Aと次男Bの2人がいるが、相続財産としては時価 2,000万円の土地1つしかないとします。この場合、時価 2,000万円の土地を長男Aが相続により取得するかわりに、長男Aが次男Bに 1,000万円を払ったとします。

 長男Aが相続により取得した土地を将来譲渡した場合には、次男Bに支払った 1,000万円は譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算することはできません。次男Bに対する債務は長男Aの相続税の課税価格の計算上控除されるべきものであつて、遺産である土地の取得費を構成するものではないからです(所基通38-7(1))。

最高裁第三小法廷平成6年9月13日判決(集民173号79頁)判示要旨

 相続財産は、共同相続人間で遺産分割協議がされるまでの間は全相続人の共有に属するが、いつたん遺産分割協議がされると遺産分割の効果は相続開始の時にさかのぼりその時点で遺産を取得したことになる。したがつて、相続人の1人が遺産分割協議に従い他の相続人に対し代償としての金銭を交付して遺産全部を自己の所有にした場合は、結局、同人が右遺産を相続開始の時に単独相続したことになるのであり、共有の遺産につき他の相続人である共有者からその共有持分の譲渡を受けてこれを取得したことになるものではない。そうすると、本件不動産は、上告人(納税者)が所得税法60条1項1号の「相続」によつて取得した財産に該当するというべきである。
 したがつて、上告人がその後にこれを他に売却したときの譲渡所得の計算に当たつては、相続前から引き続き所有していたものとして取得費を考えることになるから、上告人が代償として他の相続人に交付した金銭及びその交付のため銀行から借り入れた借入金の利息相当額を右相続財産の取得費に算入することはできない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

代償分割に係る代償資産が土地や株式の場合

 代償分割は、一般的には、他の相続人に対してお金で払うことが多いのですが 、この場合には、譲渡所得税の問題は生じません。しかし、代償分割に係る資産が土地や株式のような譲渡所得を生じうる財産の場合、すなわち含み益がある財産については、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したとして、譲渡所得税が課されます(所法36①②、所基通33-1の5)。

 例えば、代償分割により債務を負担した長男Aから次男Bに、債務の履行としてお金ではなく、長男Aが従来から所有していた(他の)土地で支払われたとします。この場合、長男Aには譲渡所得税が課されます。

 そして、次男Bはその土地を貰ったときに、その時の時価により取得したこととなります(所基通38-7(2))。

 代償分割財産の時価(代償分割時の時価)を上回る代償分割金額をもらった場合には、贈与税の課税問題が生じることがあります。

 例えば、相続人が長男Aと次男Bの2人がいるが、相続財産としては代償分割時の時価2億円の土地X1つしかないとします。この場合、その土地Xを長男Aが相続により取得するかわりに、長男Aが次男Bに長男Aが従来から所有していた土地Y(相続開始時の相続税評価額8,000万円、代償分割時の時価1億円)を提供することになつたとします。

 この場合、長男Aには、次男Bに提供した財産(土地Y)について時価すなわち、1億円を収入金額として計算した所得税(譲渡所得)が課税されます。なお、次男Bには贈与税は課税されません。

相続時精算課税の適用を受けた贈与財産を目的とした代償分割をすることの可否

 長男が、5年前に1億円の贈与を受け、相続時精算課税を選択して贈与税の申告をしました。本年、被相続人が死亡したが相続財産0であったため、長男が現金5,000万円を次男に支払ったとします。

 この場合は5,000万円を代償債務として課税価格から控除することはできず、支払った5,000万円については、次男に対する贈与となります。

 代償分割は、本来の相続財産を現物分割することに代えて行われるものであるところ、過去に贈与を受けた財産は代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産となりえません(特別受益として法定相続分の計算上考慮される場合はある。民法903)。

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