概要
発行会社が取締役、従業員(役職員)を受益者に指定して、役職員に税制非適格ストックオプション(信託型)を付与した場合、付与時に課税はなく、ストックオプションを権利行使して発行会社の株式を取得した時に、経済的利益が給与所得となります(所法 28、36②、所令 84③)。
なお、株式の売却時にも株式の譲渡所得として課税されます。
所得税法上の取扱い
譲渡制限の付された税制非適格ストックオプション(信託型)の所得税法上の取扱いを具体例で説明します。
①金銭の信託(信託の組成)時
発行会社又は発行会社の代表取締役等が信託会社に金銭を信託して、信託(法人課税信託)を組成します。当該信託(法人課税信託)には、組成時に受益者が存在しないことから、発行会社又は発行会社の代表取締役等が信託会社に信託した金銭に対して、法人課税が行われることとなります。
②信託会社の発行会社のストックオプションの購入時
会社が発行したストックオプションを信託会社が買い取り管理します。例えば、信託会社が、発行会社の譲渡制限付きストックオプションを適正な時価500円で購入したとします。この場合、適正な時価での購入なので、経済的利益が発生しないことから課税関係は生じません。
③役職員に権利(新株予約権)付与時
発行会社は、信託期間において会社に貢献した役職員を信託の受益者に指定し、信託財産として管理されているストックオプションを当該役職員に付与します。貢献した役職員や他社から引き抜いた役職員に発行会社がポイントなどを付与し、そのポイントとストックオプションを交換するようなことが行われています。
なお、役職員に当該ストックオプションを付与した場合の経済的利益については、課税関係は生じません(所法 67 の3②)。税制非適格ストックオプションの付与時の経済的利益は、当該ストックオプションには譲渡制限が付されており、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、課税関係は生じません。
役職員は、信託が購入の際に負担した500円を取得価額として引き継ぐこととなります(所法 67 の3①)。
④権利行使時
役職員が、例えば株価が8,000円になった時にストックオプションを権利行使した場合、権利行使価額が2,000円であれば、2,000円を払込んで株を取得します。権利行使時に役職員が得た経済的利益5,500円(8,000円‒ 500円‒ 2,000円)は、給与所得として課税されます。
<算式>
(権利行使時株価 - 引き継いだ取得価額 - 権利行使価額) × 株式数 = 所得金額
(注)発行会社は、上記の経済的利益について、源泉所得税を徴収して納付する必要があります。
⑤株式売却時
役職員がストックオプションを権利行使して取得した株式を、株価が10,000円になった時に売却した場合は、差額2,000円(10,000円‒8,000円)が株式の譲渡所得として課税されます。
<算式>
(売却価格 - 権利行使時株価) × 株式数 = 所得金額
源泉徴収
税制非適格ストックオプション(信託型)については、ストックオプションの行使による株式の交付の際に、給与所得に係る源泉所得税を徴収して、翌月10日までに納税地の所轄税務署に納付する必要があります。
既にストックオプションの行使が行われ、源泉所得税の納付をしていない場合には、速やかに源泉所得税を納付する必要があります。納付した源泉所得税は、ストックオプションを行使した者に求償することができます。
なお、源泉所得税を一時に納められない場合には、税務署に申請を行うことにより、原則として1年以内の期間に限り、納税の猶予等が認められる場合があります。納税地の所轄税務署の法人課税部門(源泉所得税担当)に相談すると良いでしょう。
税制非適格ストックオプション(信託型)から税制適格ストックオプションへの移行
税制非適格ストックオプション(信託型)を導入済であっても、信託がストックオプションを保有している(まだ、役職員への付与が行われていない)状態、つまり、役職員に税制非適格ストックオプション(信託型)を付与していない等であれば、税制適格ストックオプションの要件を満たすことで、権利行使時に給与課税されない(株式譲渡益課税の対象にできる)税制適格ストックオプションへの移行も可能です。
国税庁のアンケート調査では、税制非適格ストックオプション(信託型)を信託会社に委託している291社のうち、ストックオプションを行使したのは3社にとどまっているとのことなので、今後、税制適格ストックオプションへ移行する会社が出てくるでしょう。
税制適格ストックオプションとして認められる要件
信託型ストックオプションについては、次のような要件を満たせば、税制適格ストックオプションとして認められることとなります(ストックオプションに対する課税(Q&A)問12)。考え方は、税制適格ストックオプションの要件がベースとなっています。
① 信託型ストックオプションに係る信託契約において、原則として、信託の受託者が自身の判断で、そのストックオプションの行使又は第三者への譲渡をすることができないとされていること
② 発行会社の取締役等に無償で付与されること
③ 行使は、信託型ストックオプションに係る受益者を指定する日(受益者指定日)の日後2年を経過した日から受益者指定日後 10 年(一定の要件を満たす会社である場合には 15 年)を経過する日までの間に行わなければならないこと
④ 行使の際の権利行使価額の年間の合計額が1,200 万円を超えないこと
⑤ 行使に係る1株当たりの権利行使価額は、信託受益権の付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額相当額以上であること
⑥ 取締役等において、信託型ストックオプション及びその信託受益権の譲渡が禁止されていること
⑦ 行使に係る株式の交付が、会社法238 条1項に定める事項に反しないで行われるものであること
⑧ 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、信託型ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託がされること