令和6年度税制改正
令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う課税仕入れについて、横流しされた免税購入品であることを知りながら仕入れた場合には、その仕入税額控除は認められないこととなります。
概要
物品やサービスの消費について課される間接税は、消費される国において課すということが国際的慣行となっています。
これに基づいて、輸出される物品等については、間接税が課されないように調整をすることとされており、消費税法においても、輸出取引については、消費税を免除することとされています。
外国人旅行者等の一定の非居住者(免税購入対象者)が、土産品等として国外へ持ち帰る目的で輸出物品販売場において、免税対象物品を一定の方法により購入した場合には、その購入に係る消費税が免除されます(消法8)。
非居住者が土産品等を国外へ持ち帰ることは、実質的に輸出と同じであるからです。
輸出物品販売場の免税制度はインバウンドの増加を背景に拡充されてきましたが、そのことにより、消費税の不正や脱税が多く行われているのが現状です。
令和5年4月1日以後は、外国人留学生などの長期滞在者が免税品を購入するようなことはできなくなり、第三者からの依頼を受けての不正はやりにくくなるでしょう。
また、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う課税仕入れについて、横流しされた免税購入品であることを知りながら仕入れた場合には、その仕入税額控除は認められないこととなるため、事業者も購入しづらくなるでしょう。
ただし、輸出物品販売場(免税店)で免税手続きが取れる現状では、不正はなくならないといえます。雑にチェックをしたり、不正をする店がなくなるとは考えれないからです。
リファンド方式
諸外国の多くは、外国人旅行者が買い物をした場合でも一旦店に消費税を支払ったうえで、帰国する際に空港で還付手続きをし、後日、消費税を還付してもらう仕組み(リファンド方式)を取っています。
令和7年度税制改正において、このリファンド方式の導入が検討されています(令和6年度税制改正大綱より)。
「不正を排除しつつ、免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、出国時に税関において持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度とする。実務的には、免税店が販売時に外国人旅行者から消費税相当額を預かり、出国時に持ち出しが確認された場合に、旅行者にその消費税相当額を返金する仕組みとなる。新制度の検討に当たっては、外国人旅行者の利便性の向上や免税店の事務負担の軽減に十分配慮しつつ、空港等での混雑防止の確保を前提として、令和7年度税制改正において、制度の詳細について結論を得る。」
国税庁の取組
国税庁では、調査での主要な取組の一つとして「消費税還付申告法人への取組」を掲げており、輸出物品販売場はマークされています。
〇「平成30年度 査察の概要(令和元年6月)国税庁HP」
高額な腕時計の仕入れを装い架空仕入(課税取引)を計上するとともに、その商品を輸出物品販売場の許可を受けた免税店で外国人旅行者に販売したように装い架空売上(免税取引)を計上する方法により、多額の消費税還付金額を記載した内容虚偽の消費税の確定申告を行い、不正に消費税の還付を受けようとした会社を告発
〇「令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要(令和2年11月)国税庁HP」
輸出物品販売場で実際に店舗に来ていない外国人のパスポートを流用し、国内事業者に対する売上(課税取引)を外国人旅行者へ販売した(免税取引)ように装い課税売上を免税売上に計上し、約1億円の不正還付税額があった
〇「令和3事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について(令和4年11月)国税庁HP」
輸出物品悪用事案の調査状況を初公表。30件実地調査を実施した結果、1件当たりの追徴税額は、4,143万円となった
免税対象物品
輸出物品販売場における免税対象物品は、お土産品等として国外に持ち帰る目的で購入される物品のうち、「通常生活の用に供する物品」をいいますが、次の範囲の物品となります(消法8①、消令18①二、⑬)。
免税対象物品の区分 | 販売価額(税抜)の合計額 |
---|---|
一般物品(家電、バッグ、衣料品等《消耗品以外のもの》) | 5千円以上 |
消耗品(飲食料品、医薬品、化粧品その他の消耗品) | 5千円以上50万円以下 |
販売価額(税抜)の合計額とは、同一の免税購入対象者に対する同一の輸出物品販売場における1日の販売価額(税抜)の合計額をいいます。
例えば、税抜価額が4,800円の化粧品(消耗品)のみを販売する場合は、免税の対象とならないということになります。
なお、一般物品と消耗品のそれぞれの販売価額(税抜)が5千円未満であったとしても、その合計額が5千円以上であれば、一般物品を消耗品と同様の指定された方法により包装することで、免税販売することができます。この場合、当該一般物品は、消耗品として取り扱うこととなります。
「通常生活の用に供する物品」とは
「通常生活の用に供する物品」について、山口地裁平成25年4月10日判決(税資263号-70(順号12194))では以下のように判示(要旨)しています。
消費税法8条1項は、輸出物品販売場において、非居住者に対し政令で定める物品で輸出するため所定の方法で購入されるものを譲渡する場合、事業者に対し消費税を免除する旨を定め、消費税法施行令18条1項は、上記物品を、「通常生活の用に供する品」と規定するところ、「通常生活の用に供する物品」とは、当該非居住者が通常の生活において用いようとする物品を指すのであって、その者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品は含まれないと解するのが、消費税法7条の定める輸出免税制度のほかに輸出物品販売場による免税制度を設けた趣旨に照らし相当である。
販売状況(販売回数、販売数量及び販売金額)からすると、本件購入者らが土産物にする目的で本件家電製品を購入したものとは到底考えられない上、上記販売状況や、本件家電製品の一部につき後日の振込みという方法が用いられ、その場合の振込名義人が本件購入者らではないことからすると、本件購入者らは家電製品の買い付けを行う事業者であると推認するのが相当であることにも照らせば、本件購入者らは、本件家電製品を通常の生活において用いようとする物品として購入しようとしたのではなく、事業用又は販売用に購入したことが明らかであるというべきである。
したがって、原告が本件購入者らに対して行った本件家電製品の販売については、通常生活の用に供する物品の譲渡に当たらず、消費税法8条1項にいう政令で定める物品の譲渡に該当しない。
一般物品と消耗品とが一の資産を構成している場合
「一般物品と消耗品とが一の資産を構成している場合」とは、以下のように一般物品と消耗品とを組み合わせて一の商品としている場合をいい、消耗品として免税販売手続を行います(消令18④一、消基通8-1-3)。
なお、一般物品の機能を発揮するために通常必要な消耗品が当該一般物品に付属されている場合は、「一般物品と消耗品とが一の資産を構成している場合」に該当せず、一の一般物品に該当し、一般物品として免税販売手続を行います(消法8①、消令18③、消基通8-1-3)。
【一般物品と消耗品とを組み合わせて一の商品としている場合の例】
おもちゃ付き菓子、ポーチ付き化粧品、グラス付き飲料類
【一般物品の機能を発揮するために通常必要な消耗品が当該一般物品に付属されている場合の例】
必要最小限の乾電池が付属した電化製品、インクカートリッジが装着されたプリンタ
金又は白金の地金や、事業用又は販売用として購入されることが明らかな物品
金又は白金の地金や、事業用又は販売用として購入されることが明らかな物品は、免税販売の対象となりません(消法8①、消令18①一)。
金又は白金の地金は、そもそも通常生活の用に供する物品とはいえませんが、平成28年4月1日(平成28年度改正)より、免税対象物品から除外されることが法令上明確化されました。
明確化される前は、事実上、免税対象物品として取り扱われていたため、一部の外国人旅行者が金地金を免税購入し、日本国内で横流しする事例が多数あったのです。
なお、下記で記載している東京地裁令和2年6月19日判決(税資270号-55(順号13415))での原告X社は金地金の販売を免税売上とすることができなくなっため、金工芸品の免税架空売上をしたことにより争われることとなりました。
免税対象外の金又は白金の地金とは、例えば、金の延べ棒などのことであり、金の腕時計やネックレスなどといった装飾品や金工芸品は、通常生活の用に供する物品であると考えられるため免税対象となります。
また、事業用又は販売用のほか転売目的や SNS 等で依頼を受けて第三者のために購入することが明らかな物品も、免税販売の対象となりません。
2022年12月、アップルジャパンが消費税免税販売と認められず140億円の追徴課税がされたという報道がありましたが、中には、中国からの旅行者が1人で転売目的で数百台のiPhoneを免税で購入した例もあったそうです。
免税購入対象者
令和5年4月1日以後は、輸出物品販売場において免税で購入することができる非居住者(「免税購入対象者」といいます。)の範囲について、次の見直しが行われます。
イ 日本国籍を有しない非居住者については、「短期滞在」、「外交」、「公用」の在留資格を有する者等に限ることとされました。
「留学」、「研修」といった在留資格による滞在の場合は、除外されることになります。外国人留学生などの長期滞在者が第三者からの依頼を受けて免税品を購入し、日本国内で横流しする事例が多かったためです。
ロ 日本国籍を有する非居住者については、在留証明等により、国内以外の地域に引き続き2年以上住所等を有する者に限ることとされました。
輸出物品販売場における販売手続において非居住者による名義貸しが行われており、当該非居住者は実際の購入者でないことから、輸出免税の対象とすることはできないとされた東京地裁令和2年6月19日判決(税資270号-55(順号13415))・東京高裁令和3年9月2日判決(棄却)(控訴)
(1)事案の概要
① 原告X社は、昭和36年に設立された、ラジオ、テレビジョン及び電化器具等の販売業並びに金地金、宝石及び貴金属製品等の輸出入及び販売業等を目的とする株式会社であるが、平成28年4月以降、東京都千代田区所在の輸出物品販売場(以下「本件販売場」という。)において、約1kgの金工芸品(大判、皿、猿の置物、タンブラー、刀のつば等)を1個当たり450万円程度の金額で譲渡するようになった。
② X社の消費税の課税期間は1か月であるが、平成28年4月から平成29年2月の各課税期間(本件各課税期間)におけるX社の本件販売場での金工芸品の譲渡(以下「本件各譲渡」という。)は、香港の旅行会社B社の従業員とされる者、韓国の旅行会社C社の従業員とされる者及び韓国の旅行会社D社の従業員とされる者(以下「各コーディネーター」という。)のいずれかが関与して行われており、本件各譲渡の際には、X社に対して、外国人旅行者の名義で作成された購入者誓約書(以下「本件各購入者誓約書」という。)及び当該外国人旅行者の旅券の写しが提出された(以下、当該外国人旅行者を「本件各名義人」という。)。
③ (イ)複数の各名義人が、金工芸品を購入した事実はなく、旅券を貸与し、購入者誓約書に署名しただけであると供述していること(「秋葉原駅で先方に旅券を渡し、5~10分後に返してもらい、アルバイト料として2万円を受け取った」等と証言している)、(ロ)複数の各名義人が、旅行日程からして、金工芸品の購入日に販売場に来店することが事実上不可能であったこと、(ハ)D社コーディネーターが、金工芸品が外国人旅行者に引き渡されておらず、代金が非居住者から支払われていない旨供述していること、(ニ)東京税関が出国者から回収した購入記録票のうち本件各譲渡に係るものは、平成28年8月分には1枚も存在しなかったこと。
④ X社は、本件各課税期間(11か月)中の金工芸品免税売上高は約1,050億円であるとし、その金工芸品の仕入れに係る約87億8,000万円の消費税等の還付申告を行った。
⑤ 所轄税務署長が、X社の金工芸品の譲渡は消費税法8条1項に規定する非居住者に対する譲渡とは認められないとして、消費税等の更正処分と重加算税の賦課決定処分をしたことから、X社がこれらの取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
① 本件各譲渡は消費税法8条1項に規定する非居住者に対する譲渡に該当するか
② X社に通則法68条1項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったといえるか
(3)一審判決要旨(棄却)(控訴)
① 消費税法8条1項にいう非居住者に対する譲渡といえるためには、譲渡によって免税対象物品の所有権が非居住者に移転することを要すると解すべきであり、消費税法施行令18条2項等の定める免税販売手続において非居住者による名義貸しが行われ、当該非居住者が実際の購入者でない場合には、免税対象物品の所有権が当該非居住者に移転するとはいえず、消費税法8条1項の非居住者に対する譲渡とはいえないと解するのが相当である。
② 本件各譲渡については、外国人旅行者である各名義人を購入者とする購入者誓約書が作成されている。しかしながら、本件各譲渡における金工芸品と代金の授受は、通常、X社と各コーディネーターとの間で行われていたところ、次のとおり、いずれの譲渡においても、非居住者による名義貸しが行われ、当該非居住者が実際の購入者でないといえ、消費税法8条1項の非居住者に対する譲渡ということはできない。
③ 本件各譲渡は、のべ7000人以上の名義人に対して行われたとされているが、いずれも現金取引で、ほとんどが販売価額1000万円を超える高額のものであるにもかかわらず、代金及び金工芸品の授受は、X社と各コーディネーターとの間でされており、代金が支払われる前に各名義人が現物を確認することはなく、現物を確認したい旨の要望があってX社が対応したような事情も見当たらない。これらの点については、各名義人が実際の購入者であるとしたときに不自然であることが否めないといえる。
④ 各名義人については、譲渡日に販売場を訪れていない者が複数名おり、また、キャンセルがあった当日に新たに購入者となった者や、旅券貸与又は購入代行のアルバイトとして各譲渡に関与した者が複数名いるところ、これらの譲渡については、名義貸しが行われ、これらの者が実際の購入者ということはできない(X社は、キャンセルがあった当日に新たな購入者となった者がいることについて、翌日以降に仲介する予定であった外国人旅行者について日程を繰り上げて手配するものと考えていたと主張するが、各譲渡が高額の現金取引であったこと等を踏まえると、合理的な主張とはいい難い。)。
⑤ X社は、各譲渡の当初から、名義貸しが行われ、各名義人が実際の購入者ではないことを認識していたものといえるところ、その上で、X社は、各名義人に係る各購入者誓約書の作成に関与し、その売上げを免税売上高として帳簿に記載し、各確定申告をしていたものであり、これらの行為は、各譲渡を消費税法8条1項に規定する非居住者に対する譲渡として装うもので、通則法68条1項の規定する「その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
(4)控訴審判決要旨(棄却)(控訴)
1審判決を補正又は引用するほか、以下のとおり判示し、X社の控訴を棄却した。
① 消費税法8条1項に規定する非居住者に対する譲渡は、輸出物品販売場において物品を購入した非居住者が国外に持ち出すことを前提とした譲渡であり、購入した物品は国内において費消されないものであるから、輸出取引と同様に消費税を課税しないという趣旨のものである。
② 上記の趣旨や消費税法8条1項の「輸出するため」との文言に照らせば、同項により消費税が免除されるためには、譲渡対象物品が、非居住者が輸出するために購入する物品であることを要すると解すべきであり、同条3項も、輸出するために物品を購入した非居住者が本邦から出国する日までに当該物品を輸出しなかった場合の規定と解されるから、事業者は非居住者から購入誓約書の提出を受けたというだけでは消費税の免除を受けられない。
③ 売買契約における買主が誰であるかは、売買契約書等の関係書類の買主名義のほか、売買手続に関与した者、売買代金の出損者(ママ)や売買の目的物を取得して管理・処分している者が誰か等の諸般の事情を考慮して判断すべきものであって、買主について名義貸しがあった場合に、当然に名義人が買主となるわけではない。
輸出物品販売場における免税販売の手続を定めた政令の規定は、消費税法8条1項の委任を受けて定められた有効なものであるとされた東京地裁令和4年1月21日判決(令和2年(行ウ)198号)(棄却)(控訴)
(1)事案の概要
① X(原告会社)が経営する輸出物品販売場(本件販売場)では、外国籍の者に対して時計を販売(本件各譲渡)する際、輸出するものとして購入し日本で処分しない旨を記載した購入者誓約書は作成されていたが、その者から旅券等の写しの提出を受けていなかった。
② 本件販売場では、Xが時計の買取りをする際、買取申込者が同行者を連れて来店し、買取申込者ではなく当該同行者が買取承諾書に記載するなどして、時計の買取り(本件各仕入れ)が行われることが度々あった。
③ Y(課税庁)は、(イ)本件各譲渡については、非居住者から旅券の写しの提出を受けていないことから、消費税法施行令18条2項1号ハが規定する「その所持する旅券等の写しを輸出物品販売場を経営する事業者に提出すること」の要件を満たさないため、輸出免税の対象とならないとして、(ロ)本件各仕入れに係る買取承諾書には、真実と異なる仕入先が記載されていることから、消費税法30条7項所定の帳簿及び請求書等を保存していたとは認められないため、仕入税額控除の対象とならないとして、消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたため、Xは、当該各処分の取消しを求めて提訴した。
(2)本件の主な争点
① 本件各譲渡は、輸出免税の要件を満たすか否か
② 本件各仕入れは、仕入税額控除の要件を満たすか否か
(3)判決要旨(棄却)(控訴)
① 課税要件等に係る基本的事項については、法律において定めることを要し、政令その他の下位法令に委任することが許されるのは、その技術的細目的事項に限られる。消費税法8条1項は、輸出するために購入される物品の譲渡であるという消費税を免除するための要件の基本的事項を定めた上で、輸出取引と同等と認めるに足りる方法としての手続事項を同法施行令18条2項1号が定めているものであって、同号は、同号ハも含めて上記基本的事項を前提とした技術的かつ細目的な事項を規定したものであり、同法8条1項による委任を受けて定められた有効なものである。
Xは、本件各評渡における購入者から旅券等の提出を受けていないため、本件各譲渡は、消費税法施行令18条2項1号ハ所定の要件を満たしておらず、同法8条1項に基づき消費税を免除することはできない。
② 仕入税額控除の要件として保存が要求される帳簿及び請求書等においては、課税仕入れの年月日、課税仕入れに係る資産又は役務の提供の内容及び支払対価の額、さらには仕入先の氏名又は名称の記載が真実であることを要し、それらの各記載が真実でない場合には仕入税額控除が認められないことになると解される。
本件各仕入れに係る買取承諾書には、真実と異なる仕入先が記載されていることから、帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるというべきであり、消費税法30条1項所定の仕入税額控除を認めることはできない。