概要

 役員に毎月の定期同額給与の他に賞与を払いたいならば、納税地の所轄税務署に事前に届出をする必要があります。これを、事前確定届出給与といいます(法法34①二、法令69②~⑧、法規22の3①)。

 届出には、支給額や支給時期を記載する必要があります。届出をしないで役員に対して賞与を支払った場合は、損金の額に算入されません。 

 なお、事前確定届出給与を支給する事業年度ごとに、届出をする必要があります。よって、毎期、事前確定届出給与を支給するならば、毎期、届出をする必要があるということになります。

事前確定届出給与に関する届出期限

原則

 事前確定届出給与に関する定めをした場合は、原則として、次のイまたはロのうちいずれか早い日(新設法人がその役員のその設立の時に開始する職務についてその定めをした場合にはその設立の日以後2か月を経過する日)までに所定の届出書を、納税地の所轄税務署長に提出する必要があります(法令69④)。

イ 定時株主総会等の決議によりその定めをした場合におけるその決議をした日(その決議をした日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始する日)から1か月を経過する日

ロ その会計期間開始の日から4か月(確定申告書の提出期限の延長の特例に係る税務署長の指定を受けている法人はその指定に係る月数に3を加えた月数)を経過する日

 「職務の執行の開始の日」とは、その役員がいつから就任するかなど個々の事情によりますが、例えば、定時株主総会において役員に選任された者で、その日に就任した者及び役員に再任された者にあっては、当該定時株主総会の開催日となります(法基通9-2-16)。

 役員がその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに、株主総会の決議等により、役員給与の支給すべき確定額及び確定時期を定めたとはいえず、届出役員給与は、事前確定届出給与には該当しないとされた平成22年5月24日裁決(裁事79集)があります。

定時株主総会との関係

 株式会社においては、取締役は、貸借対照表、損益計算書等の計算書類を定時株主総会に提出します(会社法438①)。そして、その提出された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければなりません(会社法438②)。

 なお、法人税の申告書は、原則として各事業年度終了の日の翌日から2月以内に提出しなければなりません(法法74①)。 そして、その法人税の申告書には貸借対照表、損益計算書等を添付しなければならないことになっています(法法74③、法規35)。

 よって、3月末決算の会社が法人税の申告書を仮に5月25日に提出した場合、それより前に定時株主総会が開催されていたことになります。5月25日に法人税の申告書を提出した場合、5月26日以降に定時株主総会が開催されたということはないということになります。

 例えば、3月決算の会社の場合、5月25日に定時株主総会が開催された場合、(イ)定時株主総会から1か月を経過する日である6月25日又は(ロ)会計期間開始の日から4か月を経過する日である7月31日のうちいずれか早い日までに事前確定届出給与に関する届出書を、所轄税務署に提出することになるため、6月25日までに提出する必要があるということになります。

業績悪化改定

 届出の届出期限は、業績悪化改定事由によりその定めの内容の変更(事前確定届出給与の支給額を減額等)に関する株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日(変更前の直前の届出に係る定めに基づく給与の支給の日がその1か月を経過する日前にある場合には、その支給の日の前日)となります。

 冬季賞与(同じ事業年度の1回目の賞与)については届出どおりに支給したものの、夏季賞与(同じ事業年度の2回目の賞与)については業績悪化を理由に減額して支給して、その届出を怠った場合に、届出どおりに支給した冬季賞与(1回目の賞与)も事前確定届出給与に該当しないとして、損金算入が否認された事例があります(東京地裁平成24年10月9日判決・訟務月報59巻12号3182頁、東京高裁平成25年3月14日判決・訟務月報59巻12号3217頁)。

届け出た支給額や支給時期と実際の支給額や支給時期が異なる場合

 所轄税務署署へ届け出た支給額や支給時期と実際の支給額や支給時期が異なる場合には事前確定届出給与に該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入とされます(法基通9-2-14)。

 つまり、支給額が1円も違わずに、支給日も1日も違わずに支給する必要があるということになります。

 なお、増額支給であれば増額分だけでなく実際の支給額の全額が損金不算入となり、減額支給であれば実際に支給した金額が損金不算入となるものと解されています。

 ある1人の役員に対して当該届出書の記載額と異なる金額の役員給与を支給したとしても、そのことを理由として、その役員以外の他の役員に対して支給した役員給与が損金不算入になることはありません(国税庁HP質疑応答事例「「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い(事前確定届出給与)」)。

 税務署に届け出た事前確定届出給与を法人が全く支給しなかった場合は、税務上、損金不算入とする支給金額がないことから、法人税における課税が生じないことになります。

定めどおりに支給されなかった場合の損金算入が否認される金額

(1)国税庁HP質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」

 国税庁HP質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」の事例①によれば以下のようになっています。

事業年度X年4月1日からX+1年3月31日
役員の職務執行期間X年6月26日からX+1年6月25日
届出額①X年12月25日  300万円
②X+1年6月25日 300万円
実際の支給額①X年12月25日  300万円
②X+1年6月25日 50万円

 事例①では、X年12月25日に届出どおり支給した役員給与については、損金の額に算入して差し支えないとなっています。

 次に、もう一つの事例②は以下のようになっています。

事業年度X年4月1日からX+1年3月31日
役員の職務執行期間X年6月26日からX+1年6月25日
届出額①X年12月  200万円
②X+1年6月 200万円
実際の支給額①X年12月  100万円
②X+1年6月 200万円

 事例②では、支給額の全額(300万円)が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となるとされています。

 このことについて、以下のように解説されています。

「例えば、3月決算法人が、X年6月26日からX+1年6月25日までを職務執行期間とする役員に対し、X年12月及びX+1年6月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定め、所轄税務署長に届け出た場合において、X年12月には100万円しか支給せず、X+1年6月には満額の200万円を支給したときは、その職務執行期間に係る支給の全てが定めどおりに行われたとはいえないため、その支給額の全額(300万円)が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。
 ただし、(略)、3月決算法人が当該事業年度(X+1年3月期)中は定めどおりに支給したものの、翌事業年度(X+2年3月期)において定めどおりに支給しなかった場合は、その支給しなかったことにより直前の事業年度(X+1年3月期)の課税所得に影響を与えるようなものではないことから、翌事業年度(X+2年3月期)に支給した給与の額のみについて損金不算入と取り扱っても差し支えないものと考えられます。」

 なお、この考え方について、東京地裁平成24年10月9日判決(訟務月報59巻12号3182頁)では判示しています(下記記載)。

(2)東京地裁平成24年10月9日判決(訟務月報59巻12号3182頁)

 東京地裁平成24年10月9日判決(下記記載)によれば以下のようになっています。

事業年度平成20年10月1日から同年21年9月30日
役員の職務執行期間平成20年11月27日から同年21年11月26日
届出額①平成20年12月 500万円(代表取締役)
        200万円(取締役)
②平成21年7月 500万円(代表取締役)
        200万円(取締役)
実際の支給額①平成20年12月 500万円(代表取締役)
        200万円(取締役)
②平成21年7月 250万円(代表取締役)
        100万円(取締役)

 届出のとおりにされた1回目を含めて、全てが、事前確定届出給与に該当しないと損金算入が認められないと判示されています。

 国税庁HP質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」の事例①と同様に、最初の支給額については届出額と同じ支給をしているのですが、事例①は2回の支給額が別々の事業年度に支給されています。一方、この判決の事例の場合は、2回の支給額が同一の事業年度にあったということです。

東京地裁平成24年10月9日判決(訟務月報59巻12号3182頁)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① X(原告)は、工具製造等を業とする株式会社であるが、平成20年10月1日から同21年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分法人税につき、平成20年12月1日及び同月9日、代表取締役甲に対し500万円及び取締役乙に対し200万円をそれぞれ冬季賞与(以下「本件冬季賞与」という。)として支給し、当該金員を損金の額に算入して、欠損金額2,360万円余及び還付金473万円余として、法定申告期限内に確定申告をした。
 これに対し、処分行政庁は、本件事業年度分法人税につき、本件冬季賞与は損金の額に算入できないとし、欠損金額1,660万円余及び還付金額338万円余とする更正(以下「本件更正」という。)等をした。Xは、本件更正等を不服として、前審手続を経て、国(被告)に対し、その取消しを求めて本訴を提起した。
② Xは、平成20年11月26日開催の定時株主総会において、甲及び乙の役員報酬を年間合計8,000万円以内と定め、同日開催の取締役会において、報酬月額を甲180万円及び乙140万円と定めるとともに、冬季及び夏季の賞与を甲各季500万円及び乙各季200万円と定めた。そして、Xは、平成20年12月22日、所轄税務署長に対し、事前確定届出給与に係る職務執行開始日を平成20年11月27日(同年21年11月26日まで)等とする事前確定届出給与に関する届出をした。
③ Xは、平成20年12月、本件冬季賞与を事前届出どおりに支給したものの、平成21年7月6日に開催した臨時株主総会において、業績悪化を理由に、夏季賞与の額を甲250万円及び乙100万円にそれぞれ減額することを決議し、同月15日、当該各金員を支給した(以下「本件夏季賞与」といい、本件冬季賞与と併せて「本件各役員給与」という。)。
 しかし、Xは、所轄税務署長に対し、本件夏季賞与の上記減額について、法人税法施行令69条3 項に定める変更届出期限までに事前確定届出給与に関する変更届出をしなかった。
 本訴においては、専ら、本件冬季賞与が事前確定届出給与に該当するか否かが争われた。

(2)本件の主な争点

 本件冬季賞与は法人税法34条1項2号の事前確定届出給与に該当せず、その額はXの本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないか否かである。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

① 事前確定届出給与の額が損金の額に算入されるとした趣旨は、事前確定届出給与が、支給時期及び支給額が株主総会等により事前に確定的に定められ、その事前の定めに基づいて支給する給与であり、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長に事前の定めの内容に関する届出がされたものであることを要件とし、そのような支給であれば、役員給与の支給の恣意性が排除されており、その額を損金の額に算入することとしても課税の公平を害することはないためであるところ、役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりされなかった場合について、その役員給与が事前確定届出給与に該当するとすることは、その趣旨に反することになる。このことは、法人税の課税所得を増加させるような役員給与の減額の場合にも同様である。
② 内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは、特別の事情がない限り、個々の支給ごとに判定すべきものではなく、当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきものであって、当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における全ての支給が事前の定めのとおりにされたものであるときに限り、当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされたこととなり、当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における支給中に1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには、当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当である。
③ 国税庁の趣旨説明は、同一の職務執行期間が複数の事業年度にわたる場合に、当初事業年度には届出どおりに支給し、翌事業年度に届出どおりに支給しなかったとしても、当初事業年度の役員給与の損金算入が認められるとしているところ、翌事業年度にされた役員給与の支給が事前の定めと異なることは当初事業年度の課税所得に影響を与えるものではなく、翌事業年度中に生起する事実を待たなければ当初事業年度の課税所得が確定しないとすることは不合理であることから、納税者に有利な取扱いを認め、翌事業年度に支給された役員給与のみを損金不算入とし、当初事業年度に支給された役員給与は損金算入を許しても差し支えないこととしたものであると理解することができる。
④ 本件においては、Xは、所轄税務署長に対し、本件夏季賞与の上記減額について、法人税法施行令69条3項の変更届出期限までに事前確定届出給与に関する変更届出をしなかったのであるから、本件各役員給与のうち本件夏季賞与の支給は所轄税務署長に届出がされた事前の定めに係る確定額を下回ってされたものであるといわざるを得ない。また、本件各役員給与に係る職務執行期間が上記のとおりであること及び本件において上記特別の事情があると認めることができない。したがって、本件冬季賞与を含む本件各役員給与は、法人税法34条1項2号の事前確定届出給与に該当しないというべきである。

(4)その後

 上告審の東京高裁平成25年3月14日判決(訟務月報59巻12号3217頁)においても、納税者の請求は棄却され確定している。